2021年度後期の木版画教室の課題は,ジェッソやニスを使う技法だ。僕はニスを使って,南極のオーロラを木版画にしようとなんどもトライしたが,なんどやっても天の川か煙にしか見えない。今回はニスによるオーロラは断念して,一昨年習った,紺色(プルシアンブルー)と緑(ミドルグリーン)の付け合わせぼかしで地平線に広がる異なるタイプのオーロラを描くことにした。主題は南極のオーロラなんだが,いろいろな工夫でそれらしいものにする努力をした。以下それらを列挙することから始めよう。(なんか論文調になってきた!)
- 南極であることを明示するため雪原にペンギンを配置した。遠近法が得意でないので,ペンギンの大きさに差をつけることで図柄に奥行きを出した。
- 南極の広がりを表すために,地平線を魚眼レンズのように少し湾曲させた。
- 雪原をジェッソを使うことでザラザラ感を出した。今期の課題はなんとか成し遂げた!
- ペンギンが向く方向は,この構図ではどう考えても上しかない。そうすると上に何かがなければならず,南十字星およびケンタウルス座のα星とβ星を空に描いた。よくみると小さな星屑も描かれていることがわかるだろう。しかし南極で実際にこのように見えるのかどうかはわからない。
そうして出来上がったのがこれ。例によって,黒い墨でボロ隠し。まずまずの出来かな。出来上がったものにエディション番号,題名,署名を入れることにした。8枚摺ったが,これはA.P.(artist proof)。まあアーティストというのはちと恥ずかしいが...。
見上げてごらん夜の星を |
題名はこの図柄をみてすぐに思い出した「見上げてごらん夜の星を」。
見上げてごらん 夜の星を 小さな星の 小さな光がささやかな幸せを歌ってる
この曲は1960年代,定時制高校(夜間高校)での生活を描いた同名のミュージカル中の曲。後に坂本九さんによって歌われ,ミュージカルも再演された。とても素敵な曲で,僕のクラリネットの数少ないレパートリーだ。
実は,1981年初めて担当したクラスは京都のR大学の経営学部の夜間部だった。病院の婦長さん(今は看護師長さんというんだろう),高校を卒業して出版社や数珠やさんにつとめている女性,京都の会社に就職して九州から出てきたという男性など,僕より年配の学生がたくさんいたのを覚えている。皆とても素敵な人たちで,一緒に『科学としての経済学』という本を読んだことを覚えている。婦長さんとは最近まで年賀状のやり取りをしていたが,僕の定年を機に年賀状を出すのをやめてしまった。僕よりも10歳以上年配だったが元気にされているだろうか?
K大学にも夜間学部があり,そのゼミを担当したことがある。最初にR大学で夜間部を担当したときから15年が経過していたため,働く人が夜学ぶという夜間部の形態も少し変化していたように思う。それでもやはり,お昼は県庁や大きなデパートで働き,夕方仕事が終わってから大学へ駆けつけてくる学生や,当時僕がよく行っていた大きなうどん屋さんに勤めている女性もいた。もちろん忘年会などゼミの懇親会はそのうどん屋さんの「うどんスキ」だった。こういうわけで,夜間部とは縁が深い。何よりも一度,併任だが「夜間学部主事」という肩書きをもらったこともある(笑)。しかし,今はもう夜間学部は無くなってしまった。
話を元に戻すと,「見上げてごらん夜の星を」はフランスのシャンソンにもなっている。僕の持っているのはClaire ElzièreのChansons d'Amour de Paris (→こちら)というCDの最後の曲。フランス語の歌詞は少し日本語の歌詞とはテイストが違うが,やはりとても素敵なものだ。