小村雪岱(1887-1940)の作品に,黒地の背景に白を小さく一部切り抜くものがあり,僕はそれにとても惹かれた。動機は不純なところもある。木版画をやる人ならわかるはずだが,白地に黒を残すのはとても難しいが,黒地を白く彫る,削るは比較的簡単だからだ。小村雪岱の作品は単純な図柄でもとてもインパクトがあるものだった。
ふと思いついたのが,茶室だ。戯れに薄い光が差し込む障子と茶碗を小さく描いてみた。自分では,俗にいう「わび,さび」を表したつもりだが,それには程遠い。木版画を説明するような篆刻を添えようとしたが,良い漢字が見つからない。「侘」,「寂」の判子ではあまりにも直接的で少し恥ずかしい。「茶」は論外。そこで,お茶の達人Sさんに画像を送って相談してみた。帰ってきた返事は『陰翳礼讃』,谷崎潤一郎の随筆である。即答だった。
僕は題名は聞いたこと(正確には見たこと)はあったが読んだことはなかった。なにせ難しい漢字だから。『陰影礼賛』なら読んでいたかもしれない。さっそく図書館で借りてきた。80ページほどの小さなものだが,まさに一気読みだった。1933年-34年に書かれたものだが,今でもまったく納得することばかりだった。さすがSさん!と彼女のセンスに感服。ちょっと僕の版画には勿体無い言葉だが『陰翳礼讃』の篆刻を作成した。陰の右が少し下がった感があるが,久しぶりに刻した大きめの判子(24ミリ四方)としては上出来だ。
茶室と障子 |
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