2022年6月23日木曜日

ヘミングウェイへのオマージュ (その2)移動祝祭日

パリを訪れたのは3回だけで,それもすべて超短期的な滞在で,そこで暮らしたわけではない。最初の訪問はパリが目的地ではなく,ブリュッセルを訪問するための経由地だった。早朝パリ北駅から「メムリンク」というベルギーの画家の名前がつけられた列車で,自分自身の結婚式のためブリュッセルへ向かった。40年以上も前のことだ。その他は,仕事の合間に訪れた美術館以外特に際立った記憶はない。

そういうわけでパリはほとんど知らないのだが,ただ,街を歩いていて,なんとなく画家がパリへ行こうとする理由はわかるような気がした。これはニューヨークの街を歩くと,多くのミュージシャンを惹きつけるエキサイティングな活気を感じるのと同じような感覚だ。

ヘミングウェイの『移動祝祭日』のイメージを木版画にしてみた。

パリの朝

もし幸運にも,若者の頃,パリで暮らすことができたなら,その後の人生をどこですごそうとも,パリはついてくる。パリは移動祝祭日だからだ。

ある友へ
アーネスト・ヘミングウェイ
1950年 
ヘミングウェイ / 高見浩訳『移動祝祭日』(新潮文庫)
他のヘミングウェイの木版画と同じく,グレーにただ一色を加えただけだ。実際にパリのアパルトマンで暮らしたわけではないので,このような景色があるのかどうかはわからないが,部屋の窓から通りを見下した光景である。これは『移動祝祭日』にある「偽りの春」から頭に浮かんだ情景だ。

「偽りの春」は,ノースポールの花の版画・裏庭の風景(こちら⇨)でふれた。そのすぐ後に,朝早く,アパートの窓を開くと,石畳の道路を山羊飼いが山羊の乳を売りに来るという記述がある。実際にそのような光景を見たことはないのだが,モンマルトルの丘を降りたあたりのあまり上等でないホテルの周りを早朝散歩した記憶をもとに木版画を作成した。

最初読んだ時は「山羊の乳」というものに違和感があった。乳といえば牛乳しか頭に浮かばなかったからだ。しかし,ロックフォールという美味しいフランスのチーズは山羊の乳から作られていることを知り,ようやく納得したわけだ。

僕にとってパリにあたるのが京都だ。研究者として働き始めた僕は,まさに若者の時(25歳から33歳)八年間京都で生活した。学生として京都に暮らすことでは決して得られないものを得たと思う。

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