足摺岬に到着したのは,日がまさに暮れようとしているときだった。晴れ渡った空と穏やかな海は,小説に描かれている足摺岬とはまったく違っていたが,既に薄暗くなっていた辺りには僕以外に誰一人いなく,岬の先端に立つ灯台は物悲しく,田宮虎彦の『足摺岬』を思い出させるのに十分だった。
足摺岬を後にした僕の残像は,不思議に自分が見た景色だけではなく,その景色を眺めている自分がいる景色だった。僕が見た足摺岬は,小説の中の「私」が見た横殴りの雨も怒涛もない,穏やかなものだった。しかしどことなく寂しげな足摺岬だった。それをそのまま木版画にしてみた。
モノクローム(白黒)の木版画は,僕の抱くイメージを直接的に表すのにとても効果的だったが,同時にさまざまな点でとても難しいやり方だった。構図や彫の技術など完成度は低く,まだまだ改善の必要はあるが,僕自身のイメージはまさにこんな感じだった。背伸びする必要はない。今は自分の実力でできる木版画で十分だ。
足摺岬 |
足摺岬は遠いところだが,季節を変えてもう一度訪れたいところだ。
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