2020年10月7日水曜日

寒露

明日10月8日は寒露。本格的に秋が始まり,だんだん冷気が強くなり草木についた露が霜に変わる時期だ。「白露」の版画も苦労したが,寒露も同様。日本の伝統的な着物の柄に「露芝」がある。沢山の円弧で描かれた芝草の上に、露が小さな丸で表されている。今回は,それを借用して寒露の木版画を作成することにした。

「白露」との違いを強調するため,露芝文様に加えて,冷たい光を放つ月(pale moon)と,北海道に生息する「キタキツネ」を描くことで寒い雰囲気を出すことにした。寒露の降りた草原をキタキツネが走る風景となった。


自分で描いた図案を見て,この風景はどこかで見た風景だと不思議な気持になった。現実にはあり得ない風景だから余計に不思議だった。記憶はとてもあやふやな上,定年を機にほとんどの蔵書を整理し(今になって少し後悔,同じ本を読みたくなり再び買い求めることがしばしばある)手元に本がないので確信はないが,ふとギュンター・グラス『犬の年(Hundejahre)』(中野孝次訳・集英社)に,犬(かつてヒトラーに献呈されたシェパード)がケルンからベルリンに向かう列車を追い,線路に沿って飛ぶように畑を走る場面があったことを思い出した。

ケルン中央駅は1998年マールブルグ滞在時に初めて訪れて以来,何度も到着し,出発した記憶に残る駅の一つである。その記憶が本の一場面の強烈な印象と重なりこのような図柄になったのかもわからない。写真は,2010年に畏友O君とドイツ連邦銀行研究所のセミナーで報告後,共同研究打ち合わせのためルール大学ボーフムを訪れた時のもの。echt Kölnisch Wasser (本物のケルンの水)とあるのは,もちろんオーデコロン(eau de Cologne, フランス語)のこと。

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1 件のコメント:

白露 さんのコメント...

作品だけでも十分感動しますが、エッセイを読ませて頂いて、一層作品を理解できて嬉しいです。篆刻の線と空白がすっきりとして、美しい。白枠に尻尾と耳が出ているキタキツネの配置も絶妙です。この度も雨の中、ありがとうございました。

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