朝突然,もと同僚のMさんから,近くのゴルフ練習場まで来ているので出てこないかと電話があった。近くと言っても幹線道路から奥まる人里離れた山奥なので,これまで見たことも聞いたこともなかった。ゴルフはやめてしまって久しいが,Mさんの案内によれば,自宅から車で10分ほどで行くことができる所だし,ちょうど朝食をとった後だったから出かけてみた。
クラブも何も持たずに出かけたら,Mさんが玄関で待っていてくれた。何よりも驚いたのは,街中でよく見かける高いポールとグリーンのネットが張られた鳥かごのようなものではなく,自然の谷あいを利用しているため,打ち上げのコースに出たような感じである。圧迫感はまったくなく,朝の空気がとても心地よい。
席は100程だろうか,プレイしているのはほとんどお年寄り(そういう自分もMさんもお年寄りなんだ!)で50人足らずだったように思うが,お天気もよく本当にのどかな自然のなかで楽しんでいるという雰囲気だ。アンティークな薪ストーブの近くの席で,しばらくMさんに借りたクラブを軽く振ったりしながら談笑していると,「今からボール拾いの時間」という場内放送があった。
なんとそれまでプレイしていた人たちが,ボール拾いを始めるのである。場内の一角で,野球用のグラウンドの整地に使われるトンボのようなものをとり,ボールが散らばるレインジへ皆散らばって行く。よく見ると,レインジに溝が何本か切られておりそこに水が流れ出した。その溝へトンボで散らばったボールを僕たちが掃き込むわけだ。
谷あいの打ち上げコースだから,レインジの奥から手前へ水が自然に流れ,ボールが水に洗われながら打席のある建物の方へ流れていく。30分足らずですべてのボールがレインジから建物へ戻って行った。別に腰をかがめるわけでもなし,年寄りにも無理のない姿勢でのボール掃きを皆楽しんでいる。ボール拾いが終われば,メンバーにはボール(2回参加で40球)とお茶がサービスされる。
ドライビングレインジのことを日本語では「打ちっ放し」とはよく言ったもので,お客は打ちっ放しで飛んで行ったボールのことは知ったことではない。しかし,ここはそうではない。打ったボールは自分で後始末をするのである。先に言ったように少しばかりの報酬がある。支払われる報酬は,ボール集めのための人を雇うより費用は少ないはずだ。
自分たちがボール集めに参加するわけだから,その間プレーを止めて時間を持て余すわけでもなく,スイングから離れて筋肉をほぐす程度の軽い運動の時間が持てる。つまり誰も嫌な気持ちにならないし,損をした気分も感じない。練習場が位置する自然をうまく利用したとても素敵なシステムだ。今流行りのことばで言えば「ビジネスモデル」だろうか。
僕は経営の専門家ではないので,ビジネスモデルについては詳しくないが,少なくとも「機器本体を安い価格で販売し,購入後は高価な消耗品を売って利益を上げる」ような経営をビジネスモデルというならば,このゴルフ練習場の「取り巻く環境や顧客の特徴を見抜いて活用する」という経営の方がよほど上等のビジネスモデルだと思う。だれも嫌な気持ちにならないところがとても良い。
どうも僕自身の嗜好には合わなかったゴルフであるが,日程を調整し,高いお金を払って,遠くのゴルフコースへ無理して出かける「社会的ゴルフ」だけがゴルフではない。日頃使わない筋肉を使い体のバランス感覚を保つため,一人気儘にこのドライビングレインジへ来て,ボールを遠くへ飛ばす爽快感と,ボール拾いを楽しもう。そう思って50年以上前の古いパーシモンの正真正銘のウッドを納戸の奥から引っ張り出してきた。
手前より1番,3番,5番ウッド |
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