大恐慌でニューヨークの街に溢れる大量の失業者も,ホロコーストで着の身着のまま強制連行される人々も,それがハンチングであろうがフェルトの中折れ帽であろうが,皆帽子をかぶっている。人間は深刻な状況の極限にあっても,尚且つ装飾を気にかけるのだろうか,それとも帽子は決して装飾ではなく,背広や靴と同様,必要最低限の衣服なのだろうか。僕はおそらく後者なんだろうと思う。そう思ってから帽子は僕の必需品になった。特に髪の毛を短くしてからは冬は冷たい風,夏は直射日光を防ぐため帽子は離せない。
愛用の帽子は,衣替えで触れたボルサリーノの中折れ帽の他,夏用には同じくボルサリーノのパナマ帽とジュートの帽子がある。その他,ハンチング,キャスケット,ニット帽など,どれも被りすぎで「くたびれて」しまうまで使っている。それぞれに購入時のエピソードがあり懐かしいものばかりだ。(注)
ロードスターに乗るようになってからベースボールキャップ(👉こちら)をかぶるようになった。幌をオープンしたときに風に吹き飛ばされないよう,ニット帽あるいはベースボールキャップのように頭にきっちりとフィットすることが必要だからだ。ただどうもベースボールキャップだけは心から好きになれない。いかにも某国的(実際,某国の某前大統領の選挙集会などでは支持者だけでなく本人もかぶっているのを報道でよく見かける)な感じが強すぎて嫌なのだ。
冬はニット帽で問題ないが,夏にニット帽は頭が蒸れる。そこで見つけたのが写真のサファリハット。顎紐がついているので,風に吹き飛ばされないし,素材が薄く,通気口があるため頭が蒸れることもない。ちょいよれっとしているがそれもまた風合い。実は,帽子そのものより,帽子の前面にかかれたschöffelというロゴが懐かしくて思わず購入した。ウムラウトがあることからもわかるように,schöffel(ショッフェル)はドイツのブランドだ。
サファリハット |
マッターホルンをバックに:44歳の僕 |
(注)ジュートの帽子は映画「ラマン」でジェーンマーチ(女性)がかぶっていたのがすごく印象的で夏用に購入した。やはりボルサリーノ。ジェーン・マーチのえんじ色のリボンと違って綺麗なブルーのリボンだがとても気に入り,長い間かぶっている間にだいぶ日に焼けた。実はボルサリーノとの出会いはハンチング。2002年フィレンツェのボルサリーノの店で購入した。僕は頭が大きいので(頭の大きさは問題ではない,中のミソが問題だ,というのは志ん生の落語の枕)フィットする帽子はないと思い込んでいた。ふと入ったボルサリーノのお店でそのことを冗談混じりで言うと,「ちょうど合うような良い帽子がある」と,お店の女主人が千鳥格子のしゃれたハンチングを出してきてくれた。かぶってみるとピッタリ。即購入という運びになった。帽子とお揃いの柄のマフラーもあり勧められたが,それはちょっとやりすぎかな?と帽子だけにしたのだが,やはり購入しておくべきだったと20年間後悔し続けている。そのハンチングも昨年,鍔のなかの型紙が割れてしまって被らなくなった。今はもっぱら,代わりに求めたグレーのハンチング(正確にはカスケットに近い)をかぶっている。これは映画「麦の穂を揺らす風」(👉こちら)でアイルランドのレジスタンスがかぶっている姿に触発されて愛用するようになった。とても良い映画だった。このように帽子だけでもそれぞれにさまざまなエピソードが詰まっている。
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